絶句して頭の中が????になった小学生に、松岡さんは説明した。ウィンブルドンでベスト8に残るような人物は言うことが違う、と思わせる本質を突いた答えだった。
テニスは人のいない方にボールを返す。そんなの勝つために当たり前じゃねぇか、と思ったが、日本の教育や武士道の精神からすると、それは「姑息」とか「キッタネェ!」と言われるやり口。だが、テニスでは誰もそんなことを言わない。だから、「強くなりたかったら意地悪になりなさい」。
一方、日本の武道は、相撲も空手も柔道も、すべて一撃必殺。ジワジワ攻めて相手を弱らせる、という思考回路は推奨されない。しかし、ボクシングはどうだ。
クリンチの隙に脇腹をつついて何をしているのかと思えば、相手の肝臓を攻撃して体力を弱らせるのが目的だったりする。人の油断に付け込みやがって、日本の武士道からすれば下劣とさえ言われそうな行為だ。しかし、これはボクシングの立派なテクニックである。
つまり、テニスもボクシングも、日本の“常識”とは少し逸脱した感覚の戦いのようだ。いやむしろ、そういう“ある種の権利”をお互いが持っていることを認め合った上で、相手にそうされない、もしくはさせないようにしつつ、でも自分はやる。それも作戦であり、それがそのまま見物する方にとっての醍醐味と言ってもいい。