「伝統の」と言う言葉がこれほど似合うシチュエーションにはなかなかお目にかかれない。そこにはすべてが凝縮されている。今年65回を迎えるモナコGPも、素晴らしいバトルになりそうだ。
モナコ湾を裏手の山から見下ろす。これがモナコ公国のほぼ全景。右手の丘の上に皇室のパレスが湾を見下ろし、その湾を囲むビルの谷間でレースは行なわれる。ビルに反射した音がコバルトブルーの地中海に解き放たれ、脳髄を震わすきれいな音になる。F1GP中最大の舞台装置だ。
木曜日の午後10時、モナコ湾にF1のエキゾーストノートが響きわたる。えも言われぬいい音。いや、クルマ好きだから心地よく聞こえるのではない。モナコ湾とそれを囲むビル群が、巨大な音響装置になるからだ。ビルに反射した音がこもることなく地中海に抜けていく。130デシベルという耳をつんざくはずの大音響をロマンチックな琴線を震わす音にしてしまう。そういう力がモナコには潜んでいるのだ。